有価証券報告書とは? 提出義務や記載要領、調べ方を詳しく解説

有価証券報告書という名前は聞いたことがあっても、内容まで理解していると自信を持って言える方は少ないのではないでしょうか。

今回の記事では、

  • 有価証券報告書とは何か。
  • 有価証券報告書にはどんな記載内容があるのか。
  • 有価証券報告書の活用方法を知りたい!

等の疑問について、お答えしていきます。

目次

投資家も活用する有価証券報告書とは?

有価証券報告書とは?

有価証券報告書とは、例えば上場企業等の株式を発行している企業が、自社の企業情報を開示している書類のことです。報告書には「どのような企業なのか」「どのような事業を行っているのか」「決算書等の経営状況」等を開示しています。

なお、有価証券報告書は株主のみに公開しているわけではありません。専用のシステム等を通じて、誰でも閲覧することが可能です。

有価証券報告書は投資の判断にも活用

有価証券報告書では現在の経営状況はもちろん、今後の事業展開等も見えてきます。有価証券報告書をチェックすることによって、例えば同業他社との数値比較を行うことも可能です。どの企業に投資を行うべきか、判断する際の材料として活用されることが多いでしょう。

なお有価証券報告書の目的として、「金融市場の透明化」「投資家の保護」等があります。

有価証券報告書と間違えやすいほかの書類

決算短信

どちらも投資家への情報提供という点では共通していますが、下記の3点が異なっています。

開示資料の詳細開示義務ルール情報の正確性
有価証券報告書・損益計算書等の数値報告
・事業の状況
・今後の経営予測 等
金融取引法正式な情報のみ
決算短信・損益計算書等の数値報告証券取引所正式な情報ではなく
推測された内容も含む
  • 決算短信は損益計算書等の数値報告にとどまっている。一方、有価証券報告書は、数値報告に加えて「事業の状況」「今後の経営予測」等の情報も開示される。
  • 決算短信は、証券取引所のルールとして開示されている。一方、有価証券報告書は、法律に基づき情報の開示が行われている。
  • 決算短信はスピーディーに報告することが目的なので、正式な情報ではなく推測された内容も含まれている。一方、有価証券報告書は監査が完了した後の開示なので、決算短信と比較して情報の正確性が高い。

有価証券届出書

有価証券届出書とは、上場企業等が新しく有価証券の募集や売り出しを行う際に提出を義務付けられている書類です。金融商品取引法によって定められていて、提出先は内閣総理大臣となっています。

有価証券通知書

有価証券通知書は、一定の要件を満たしていれば提出の免除が可能となっています。免除を認められている企業が有価証券の募集等を行いたい場合に、開始される前日までに財務局に届けなくてはいけないのが有価証券通知書です。

有価証券報告書の提出義務と提出期限

法律で内閣総理大臣への提出が義務付けられている

有価証券報告書は、金融商品取引法によって情報の開示を義務付けられている書類です。該当する企業は、内閣総理大臣に提出することが定められています。

有価証券報告書の提出義務がある会社の条件(非上場企業含む)

有価証券報告書の提出は、上場企業だけが義務付けられているわけではありません。

提出の義務が発生する条件が定められており、それは下記の通りです。

  • 上場企業(プライム市場、スタンダード市場、グロース市場等※2022年再編)
  • 非上場ではあるが店頭登録されている有価証券の発行者
  • 「半年間で50名以上への勧誘」「年間で累計1億円以上の募集を行う」予定で、有価証券届出書または有価証券通知書を提出する有価証券の発行者
  • 「所有者が1,000人以上いる株券」等の発行者

提出期限は事業年度終了後3か月以内

前述の通り内閣総理大臣への提出が定められていますが、その提出期限は「事業年度終了後、3か月以内」となっています。上場企業は3月決算が多いですが、例えば3月決算の企業は6月末日までには有価証券報告書を提出しなければいけません。

有価証券報告書の未提出・虚偽記載 

条件を満たしている企業等は提出を義務付けられている有価証券報告書ですが、提出しなかった場合はどうなるのでしょうか。虚偽報告した場合も含めて、確認していきましょう。

有価証券報告書の未提出・虚偽記載には罰則がある

有価証券報告書の提出を怠ったり、虚偽の記載を行った場合は、下記のような罰則を受けます。

  • 民事責任
  • 刑事罰
  • 行政罰
  • 上場廃止

なお虚偽記載は、大きく2つに分類されます。

  • 記載内容に虚偽がある
  • 記載しなければいけない事項について記載がない

有価証券報告書の虚偽記載事例

虚偽の記載があった実際の例として、「西武鉄道」「日産自動車」のケースを見ていきましょう。

  • 西武鉄道

    西武鉄道は、有価証券報告書に記載のあった「大株主であるコクドの持株数を過小報告」していました。東証では大株主上位10名の割合が75%を超えると上場廃止とする基準を設けていましたが、西武鉄道は80%となっていたのです。基準通り、西武鉄道は上場廃止の処分を受けています。

  • 日産自動車

    日産自動車では、財務諸表での虚偽記載がありました。当時会長だったカルロス・ゴーンが他者と共謀して、8年間に渡って約91億円の役員報酬を有価証券報告書に記載しなかったことが裁判によって認定されたのです。この罪により、日産自動車は2億円の罰金を命じられています。

有価証券報告書を見ると何がわかる? 記載内容を解説

有価証券報告書には実際どんなことが記載されているのか、この章では7つの項目について紹介していきます。

1.企業の概況

「企業の概況」で記載されている主な項目は、以下になります。

  • 「売上」「利益」「自己資本比率」等、企業の経営状況を見る上で重要な数値の報告
    過去数年間の推移がわかるので、今後を予測する参考になります。
  • 沿革(企業のこれまでの歴史)
  • 事業内容
  • 関連会社や子会社等の状況
  • 従業員の状況(平均年齢、平均勤続年数、平均給与等)

2.事業の状況

「事業の状況」で記載される主な項目は、以下の通りです。

  • 決算書等の数値による経営者の分析
  • 現在の経営環境や抱えている課題、今後の展望
  • 経営する上で重要な契約について
  • 研究開発の現状報告

3.設備の状況

「設備の状況」で記載される主な項目は、以下の通りです。

  • 現在どのような設備を保有しているか
  • 今後どのような設備にどれくらいの投資を行う予定か
  • 設備の除去計画

4.提出会社の状況

「提出会社の状況」で記載される主な項目は、以下の通りです。

  • 株式や自己株式の取得状況
  • 株式総数や資本金の推移
  • 配当を株主にどう還元していくかの方針
  • 役員の状況
  • コーポレート・ガバナンスの取り組みについて

5.経理の状況

「経理の状況」で記載される主な項目は、以下の通りです。

  • 財務諸表等の開示
  • 連結財務諸表等の開示

「企業の概況」で重要な数値をピックアップして記載してありますが、ここでは「損益計算書」「貸借対照表」等の財務諸表をすべて確認することができます。

6.提出会社の株式事務の概要

「提出会社の株式事務の概要」で記載される主な項目は、以下の通りです。

  • 決算月等の会計期間
  • 定時株主総会の日程
  • 配当の基準日
  • 株式の単元数

7.提出会社の参考情報

「提出会社の参考情報」では、親会社の情報やこれまでに該当しなかった参考情報(有価証券報告書を提出する過程で提出した書類)等が記載されます。

有価証券報告書は金融庁の「EDINET」から誰でも閲覧可能

有価証券報告書は株主や会社関係者でなければ見れないわけではなく、誰でも閲覧することができます。

閲覧可能な場所は、下記になります。

  • 該当企業のホームページ
  • 東京や福岡等の各証券取引所
  • 各地域の財務局
  • EDINET(金融庁が管理している電子開示システム)

特にEDINETは、インターネット環境があれば場所を問わず閲覧できるので便利です。

また有価証券報告書だけではなく、半期報告書、公開買付報告書等あらゆる書類を確認することができます。

有価証券報告書の作成前にやっておくべきこと

日次決算・月次決算・年次決算による決算状況の把握

有価証券報告書は決算後の企業の概況、財務諸表等をまとめた書類です。また投資家に対して、投資判断を行う上で有益な情報を開示するための書類でもあるので、まずは決算状況の把握を行いましょう。

該当する期の「各月の月次決算」「年次決算」から、売上高や利益等の重要な数字をチェックします。また得た情報を基にして、営業利益率やキャッシュフロー等、経営状態を測ることのできる指標についての分析が必要です。その際は単年ではなく、過去からの推移も伝えられるように準備しましょう。

なお、企業の経営状況をリアルタイムで把握していくためには「日次決算」が有効です。毎日数字をチェックすることで、何か問題が発生した時にも素早く対応することが可能になります。また、例えば曜日ごとの傾向等を掴めるようになり、今後の売上や利益予測に繋げることもできるでしょう。

決算状況以外にも経営方針や事業のリスク等もチェック

財務諸表等の数字の羅列からだけではわからない、定性的な情報の開示も必要です。

例えば、現在の経営環境とそれにどう対応していくかを示す経営方針、現在抱えている課題や生じる可能性のあるリスク等が該当するでしょう。

決算上の数値結果、そしてそれ以外の定性的な情報を総合的にとらえ、投資家は「この企業に投資するべきか」を判断していきます。

監査法人や公認会計士への監査依頼

開示情報に誤りや不足があると、先述のように虚偽を疑われてしまう可能性が出てきてしまいます。また投資家に対しても、適切な情報を提供できなくなってしまうので要注意です。

そして正確な報告を行うため、監査法人や公認会計士による監査が義務付けられています。監査依頼を忘れないことも大切ですが、監査に必要な書類・情報を事前に把握し、スムーズに監査が行われるように準備していきましょう。

他社の有価証券報告書の活用方法

有価証券報告書は誰でも無料で手に入るにも関わらず、企業経営に関する様々なデータや情報を得ることが可能です。では「どのように活用できるのか?」について、4つの方法を紹介します。

株式購入の参考として

有価証券報告書の目的のひとつが、投資家への投資判断の情報提供であることはお伝えしました。言い換えれば、投資に必要な情報が盛り込まれていることになります。

監査を受けた後の正確な数値や情報なので、現在の経営状況はもちろんのこと、将来の予測を行うこともできるでしょう。そこで分析した結果をもとに、株式購入の参考材料として活用が可能です。

業界や競合の分析として

上場企業であれば、同じく上場している同業他社を分析する資料として活用できます。また中小企業でも、同じ業界の上場企業をモデルケースとして活用できるでしょう。

例えば「営業利益率」や「一人当たり売上高」を自社と比較することで、課題や何をするべきかが見えてくるかもしれません。また業界動向やトレンドについて知る良い機会になるのではないでしょうか。

転職活動時の情報収集として

もし、転職先の企業が上場しているのであれば、情報収集の一環として活用できます。従業員の平均年齢や勤続年数、年収も掲載されているからです。また経営数値や企業概況を知ることで、面接時に使えるネタを仕入れることができるでしょう。

営業活動の一環として

大企業向けに提供できる商品やサービスを抱えているのであれば、営業活動の一環として有価証券報告書を活用してみましょう。自社で解決できる領域で、課題を抱えている企業を見つけ出すことができるかもしれません。営業のキッカケさえ見つけてしまえば、あとは行動するのみです。

まとめ

有価証券報告書について、基本的なことから記載内容、活用方法までお伝えしてきました。

  • 有価証券報告書は、上場企業等で提出が義務となっている。投資家への情報開示が目的のひとつとなっており、内閣総理大臣に提出を行う。
  • 有価証券報告書には「企業の概況」「事業の状況」等、記載するべき項目が決まっている。記載内容の虚偽や不足があると罰せられる。
  • 有価証券報告書は、競合他社の分析や営業活動の情報収集手段等、あらゆる立場の人に活用できる貴重な資料である。

今回の記事を機会に、会社経営やご自身の仕事に有価証券報告書をどう活用できるか、考えてみましょう。

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oneplus編集部

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